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院長のエッセイ


 男と女の間には・・・

 男女はもともと脳の働きが違い、それを了解すれば多くのトラブルを回避できる(かも?)ということを
解説した本がベストセラーとなりました。

男性は過去何万年間、狩猟などを行ってきた名残で空間的認知力に長け、女性は住まいを守り
人々と和して生きてきたために、感情の機微を察知する面が強いなど、是非はさておき、なぜこんなことが
指摘されてなかったのかと何度も膝を打ちました。

 その一つ。妻は夫が帰ってくるとその日にあったことを話して聞かせる。夫は問題を提起されたと思い、
合理的な解決策を示すのだが、妻はいっこうに喜ぶ風ではない。女性は話を聞いてもらいたいのであって、
必ずしも解決策を求めていないことを男性が認識しないがためのすれ違いであると。これを読んで
得心した私は、外来にいらっしゃる女性もそうなのでは、という日ごろの疑問に解答を得た気分でした。

 あれこれなにしろ具合が悪い、と並べられる女性に対して、これまでも有効な解決策を示せていたわけでは
ないのですが、「それは大変だねぇ」と聞いてあげるだけで満足して帰られることがあります。

 無論、精神活動や感情をこれのみで説明できるものではありません。むしろコントロールできないものに
支配されているのだということを肝に銘じておいた方が、男女のコミュニケーションでは大切だということに
なりそうです。ただ、本を読んで良くわかった気になっても、相変わらず実生活ではいさかいを繰り返してしまうのも、
男の悲しいサガ、ですが・・・。

 更年期以降に心疾患や脳血管障害が急増します。逆に考えれば、それまで女性ホルモンに守られていた分、
アドバンテージがあります。しかしそれだけではないようです。ロシアでは男性の平均寿命が女性より
12歳も短く、その理由のひとつに、男性は自分の健康管理に熱心でないから、というのがあります。

 外来をみていればそれも納得がいきます。まじめに通院するのは圧倒的に女性で、健診でも
待っておられるのはほとんどが女性。男性はせっかく受診しても症状がよくなると遠ざかり、
よほど具合が悪くならないと受診しない方が多い。根気がないという性格すら男性脳の特徴である
とすれば、この形勢が逆転することはないのでしょう。

 社会的には男女不平等といわれ、雇用や仕事上での差別がありますが、生物学的には男性の方が
脆弱で(体力・筋力でなく、サバイバルするという意味で)、弱い立場にあるということを考えあわせれば、
女性陣も日頃の溜飲が下がるのではないでしょうか。

 最近は女性専門の病院・外来が増えて好評を博しています。医師はすべて女性で、
配慮の行き届いた外来の中、男性には伝えにくかった悩みでも打ち明けやすいようです。
更年期障害の患者の多くが、病院を転々としてきた理由もここにあることを考えれば、朗報と思います。
それでも欧米では70%に行われているホルモン療法が、日本ではいまだに3%のみとされます。
ここまで違うのはなぜかと思っておりましたが、男性優位の医者の認識のなかで真剣な対応が
遅れていたことは否めないのではないでしょうか。

 ホルモン療法が広がれば、さらに女性の平均寿命は延び元気なお年寄りが増えるでしょう。
なにもそこまで、とお考えの男性も多いでしょうが、原因がわからぬまま周囲の皆さんを巻き込んでいる例も
多いことを考えれば、男性のみならず社会全体に大きなメリットをもたらすことになるのではないでしょうか。
それにひょっとして女性医師の外来は、男性にとっても福音となるかもしれません。動機がなんであれ
通院継続のきっかけになるかもしれませんからね(笑)。
(大北医報掲載)



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