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院長のエッセイ


 からだの科学館

 さて、今日は子供たちと楽しみにしていた「からだ科学館」を見学する日です。
まちと病院が、子供たちにからだのことや健康のありがたさを知ってもらおうと、お金と知恵を出し合って
つくったその科学館は、テーマパークのようだと評判を呼んで、いまでは遠くから見学に訪れる人もいます。

 一階は広々としたロビーで吹き抜けになっていて、図書室とインターネットカフェがあり、いろいろな
医学情報を閲覧できます。健康雑誌や医学雑誌のほか、健康に関する書物がセレクトされて
おかれています。

 一角には小さなレストランもあります。自然食品によるメニューが工夫されていて、近隣からとれた
新鮮な野菜や果物を使ったサラダやジュースがあります。自分の状態、たとえば、糖尿病や高血圧・
骨粗鬆症などに応じて、おすすめのメニューを選ぶことができます。

 二階ではからだの仕組みや病気を、体験を通して学ぶことができます。人体模型だけでなく、
コンピューターグラフィックやアニメを使った映像が展示されています。超音波(エコー)で自分の内臓を
見るコーナーもあります。聴診器で聴く自分の心臓の音に子供たちはまさにドキドキです。

 病気のコーナーでは、タバコを吸って真っ黒になった肺や、コレステロールでどろどろの血、動脈硬化で
流れにくくなった血管の模型などが展示されています。初めて見る子供たちにはかなり怖いようです。
白内障のメガネとおもりと耳栓などをつけたり、車イスに乗ったりして高齢者や障害のある世界を
体験してもらうコーナーもあります。

 見学を終えた子供たちは口々にいいます「ああ、こうして元気でいるのって、すごくありがたいんだね、
もっとからだを大切にしなくちゃ」と。

 えっ、そんな科学館、どこにあるかって?じつはまだ私の頭の中なんです。ごめんなさい。
でも、あったらいいと思いませんか?これは全くの夢物語でもなく、シンガポールには実在するのです。

 高血圧や糖尿病、高脂血症、はてはガンの一部まで、生活習慣が密接に関係していることが
明らかとなっています。ただ、毎日の外来で感じることは、これまで何十年もかけて築き上げた生活習慣を、
大人になってから変えるのは容易ではないということです。

 「タバコはやめてお酒もほどほどに、バランスのとれた食事を腹八分に摂って、十分な睡眠と運動を行い、
ストレスをためないようにしましょう」毎回、唱えるのは簡単ですが、個人個人の事情があり、
達成にはいくつものハードルがあります。まさに「わかっちゃいるけどやめられない」。

 その点、頭が柔らかい子供の頃から、きちんとした健康医学的な知識を、身をもって覚えてもらうことが
非常に重要です。コンビニやファーストフードに囲まれ、菓子も清涼飲料水もタバコも酒も自由に買える
環境にあるからこそ、自らの体を作り上げるのは毎日の食生活であり、それを管理できるのも自分である
ということをしっかりと子供に教えるべきです。

実現の日まで私の夢は続きます。
(平成15年10月秋田魁新報「聴診器」)



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