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 「性差医療」とはなんですか?

 男女の身体が違うのはもちろんですが、いくつかの病気の起こりやすさには男女差があります。
これまで病気の研究は男性対象のものが多かったのですが、すべての診断基準や治療が男女同じで
よいのかという検討は最近なされるようになり「性差医療(医学)」という言葉も生まれました。
これは男女の生物学的差、それぞれに特有の疾患や病態などのほか、社会的な立場と健康の関連に
関する研究を進め、その結果を診断、治療、予防へ反映することを目的とした医療改革のことです。
「女性専門外来」のように医療の現場でも着目され拡大しています。差異を認識して異なった対応を
することが医学的には平等ということです。私自身も大学では更年期高血圧を研究していました。

 米国では男女とも死亡原因の第1位は心血管疾患ですが、1985年にこの死亡数で女性が男性を
超えました。以降男性の心血管疾患は着実に減少しているのに、女性は減少傾向が認められないことが
問題になっています。男性対象の研究結果に基づく治療・予防法が、必ずしも女性には当てはまらない
のではという疑問を提起しています。

 全世界的には女性のほうが男性よりも長生きです。心筋梗塞、脳卒中、高血圧、肺癌など
男性に多い病気がある一方で、女性は男性よりも少ない飲酒量で肝硬変になりやすい、骨粗鬆症が
多い、うつ病になりやすい、などの差があります。これらには性ホルモンの影響が大きいと考えられますが、
わからない部分も多いのです。男性に高血圧が多い理由としては、肥満者・喫煙率・飲酒量が多い、
治療率が低い、などがあげられます(ほとんどが生活習慣ですね)。

 さらに脳にも性差があることがわかっています。脳の色々の部位で神経核の構造や大きさが男女で異なる
部位があり、行動や物の感じ方、生活パターンまで決めているという説もあります。
『話を聞かない男、地図が読めない女』という本はそのあたりをユーモラスに報告してベストセラーになりました。

 ロシアでは男性の平均寿命が女性より12歳も短く、その理由に「男性は自分の健康管理に
熱心でない」という分析があります。健診を受ける人は圧倒的に女性が多いことからも、これは日本にも
当てはまりそうです。多忙なほかに「生活習慣を改めて」との指導を、人格を批判・非難されるように感じて
避ける男性が多いのでしょうか。そんな行動パターンすら男性性の特徴とすれば、形勢が逆転することは
ないかもしれません。

 日本人の心筋梗塞の危険因子を調べた報告が最近なされました。欧米では喫煙と高脂血症や肥満が
大きな危険因子なのですが、日本では高血圧が最も危険度が高く、ついで糖尿病、喫煙、家族歴でした。
国によって危険度が違うことも興味深いですが、注目すべきは、女性ではこの順位が変わり、喫煙が
非常に強力な危険因子で、ついで糖尿病、高血圧、家族歴の順だったことです。女性ホルモンは
動脈硬化に対して防御的な作用があり、閉経後に動脈硬化の進行は早まります。喫煙は閉経を
約2年早めるとも言われます。同じ喫煙量でも女性は男性の2倍肺ガンになりやすいというデータもあります。
つまり女性は喫煙による悪影響を受けやすいのです。女性が仕事に関わる機会が増え、ストレスや
生活習慣病の増加も予想されます。実際、若年女性の喫煙率は増えています。性差医療が今後
さらに注目され、男女の相互理解、協調がすすむことを期待したいですね。

 最後に、男性の皆様、40歳を過ぎたら一度は健診を受けましょう!
若い女性の皆様、ぜひ禁煙しましょう!
(北鹿新聞「お茶の間クリニック」18年8月)




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