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 ’危険なハズ’のタバコはなぜなくならない?

 いわゆる先進工業国のなかでは日本の喫煙率は高く、なかでも成人男性の
喫煙率は減っているのに未成年者や若年女性の喫煙率は増えています。
喫煙経験者は男子が中学一年生で22.5%、高校3年生で55%に達し、
女子でも高校3年生のうち36%がタバコを吸ったことがあると答えました。
喫煙率は中一男子が6%、女子4%、高3男子が37%、女子が16%でした(H12)。
子どもはほんの数週間〜数ヶ月吸っただけでも依存症になり、タバコを吸う子は
吸わない子に比べて平均身長が短く、運動能力・持久力・集中力が劣ります。

 タバコの煙には人体に有害な物質が200種類含まれます。食品や薬品には
成分表示、添加物表示が義務づけられていますが、タバコだけは逃れています。
カドミウム、ベンゼン、ジメチルニトロサミンなどといった発ガン物質、ホルムアルデヒド、
アンモニアなどの毒性物質などの他、ダイオキシンすら確認されています。
すべて列挙したら吸う気にならないでしょう。
肺ガンなどタバコが原因の病気で死ぬ人は日本では一年間に約10万人で、
交通事故や自殺による死亡数の和をはるかに上回ります。喫煙者の平均寿命は
吸わない人に比べて、男性で13.2年、女性では14.5年も短いのです。

 いわゆる「軽い」タバコも「強い」タバコも中の葉は同じで、違うのはフィルターの
穴の数だけです。むしろ「軽い」タバコのほうが吸う本数が増えたり深く吸ったりする
ので危険だとか、禁煙に成功しにくいとか、フィルターの穴を唇でふさいでしまうので
肺癌リスクは「強い」タバコと変わらない、などと報告され、欧米では広告や
パッケージで「ライト」や「低タール」など、健康被害が少なそうな印象を抱かせる言葉
の使用を禁じました。タバコの害を意識してこれらのタバコを選んでいる人が多い
ことを考えるとぞっとする事実です。

 「タバコを吸うとやせる」といいますが本当でしょうか。タバコのせいで食欲が落ちて
痩せたように見えても、逆に内臓脂肪がたまり全身の老化が早くなります。
女性は卵巣の働きが悪くなり、女性ホルモンの分泌が減るため、子宮頚癌や
骨粗鬆症のリスクが高まります。肌が荒れてしわが増え、声も低くなります。
ビタミンCが破壊されるため、つやがなくくすんだ顔になりこれを「タバコ顔」といいます。
さらに脱毛・白髪や歯周病の原因にもなります。やせたのではなく「不健康に
やつれた」状態なのです。「禁煙は一番安いエステである」と言えないでしょうか。

 親の喫煙により未熟児、死産、低出生体重児、知能発達の遅れ、乳児突然死が
増加します。イギリスではタバコにより女性の妊娠率が40%も低下し、男性が
12万人も性的不能に陥っていると報告されました。少子化の一因でもあり得るのです。
 親の喫煙は子どもの喘息、気管支炎、中耳炎などの危険因子にもなります。
子どもが風邪に弱い、喘息だという方で喫煙する親御さんが多いのには驚きます。
一本のタバコから出る煙を気道に刺激が起こらない濃度まで希釈するのには、
50mプール2杯分の空気が必要なのです。同じ部屋で喫煙することがまわりに
与える悪影響は想像をはるかに超えています。
 また受動喫煙が原因で、ガンを初め多くの病気を引き起こしますが、それが原因で
死ぬ人は人口一万人のうち500人です。たとえば、夫がタバコを吸う場合、妻が
肺ガンで死ぬ率は、夫が吸わない場合に比べて2倍に増えることがわかっています。
受動喫煙はたんなる「迷惑行為」ではなく人を傷つける「傷害行為」なのです。

 外国ではドラマの中での喫煙シーンも禁じている国が多く、タバコのCMはもちろん
流せません。それどころか禁煙をすすめるコマーシャルが流れています。
日本では数年前にようやくCMが自己規制されました。世界でタバコの自動販売機が
あるのは日本とドイツだけで、日本には65万台もあり、その売り上げはドイツの
約3倍です。未成年の7割以上は自動販売機からタバコを購入しているといわれ、
まさに「児童」販売機です。タバコの値段は英国923円、ニューヨーク市800円、
フランス700円、ドイツ471円。日本でもタバコを一日2箱吸うとその費用は
50年間で一千万円を超えます。

 喫煙者は税収に貢献しているといわれます。ところが日本全体で喫煙による
経済損失は7兆4000億円になるという試算があります。能動喫煙による
超過医療費が1兆2900億円、受動喫煙による超過医療費が146億円、喫煙により
逸失される労働力の損失が5兆8000億円、タバコが原因の火災による損失が
2200億円などです。これに対したばこによる税収は2兆2000億円です。
世界年間推定では、火事による全焼死者のうち10%の30万人が、喫煙が原因の
火事で死んでおり、その損失額は270億ドルになるそうです。税収を上回る損失が
あるのは確実と言えます。

 タバコが環境に与える影響にも大きなものがあります。タバコ1本でドラム缶
(180g)500本分の空気を汚染します。またタバコ葉を乾燥させるためには
大量の薪を必要とし、樹木伐採による森林破壊により、世界では毎年、長野県
2つ分もの面積の森が消えているのです。紙巻タバコと包装用の紙を加えると
年間30万トン近くの紙を消費します。これらの環境問題もあまり知られて
(知らされて)いません。

 喫煙は「ニコチン依存症」という病気であり、その依存性は麻薬であるヘロインや
コカインと同等といわれます。最初は好きでたしなんでいるつもりが、いつのまにか
タバコ無しでは生きていけないという状態に陥ります。
「喫煙者は自業自得」という人がいますがどうでしょうか。
正確な情報が与えられていないのでは本当の自己選択と言えないかもしれません。
むしろ好奇心や友人の影響でタバコに手を出し、いたずら半分で喫煙しているうちに
依存性によって病みつきになり生涯喫煙者となってしまったという意味では、被害者
だともいえます。喫煙者の約7割ができればタバコをやめたいと思っていることが
それを物語ります。

 欧米では裁判でタバコ会社の戦略が次々に明るみに出され、懲罰的に高額な罰金
が科せられています。以前からタバコの発ガン性に気づいていたが隠していたこと、
女性や青少年、発展途上国をターゲットにしたマーケティング、「軽い」タバコのウソ
などです。国が訴えられて被告席に着いているのは日本政府だけです。

 日本だけどうしてこうも事情が違うのでしょう?日本には「たばこ事業法」という法律があります。その第一条は「わが国たばこ産業の健全な発展を図り、もって財政収入の安定的確保及び国民経済の健全な発展に資することを目的とする」とあります。あくまでたばこ産業と経済の「健全」が目的なのです。タバコの依存性や危険性が判明する前に関連産業が巨大な力を持ってしまい禁止できないのが実情です。もしかして自分は誰かにだまされて吸い続けているのではないだろうか?多くの人が気づいて、早く卒煙されることを祈ります。
(参考文献:タバコ病辞典、10代のフィジカルヘルスたばこ、現代たばこ戦争、
悪魔のマーケティング他。北鹿新聞お茶の間クリニック、加筆修正)




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