お気軽クリニック目次
お気軽クリニック


 少しなら酒は身体にいいのですか?

 ロシアでは1985年から89年の禁酒政策の結果、自殺が3割ほど減少しましたが、政策が解除されると
再び増えてしまいました。またこの政策により、わずかな年月の間に、事故、暴力、肝硬変による死亡者数が
半減し、平均寿命も急速に延長したのです。
他の要因もあるでしょうが、一考に値する現象ではないでしょうか。
つまり、秋田県は一人あたりのお酒の消費量が長年東北一であると同時に、自殺、心疾患、脳卒中、
ガンによる死亡者数でも常に上位です。これらに関連はないのでしょうか?

 日本人は欧米人に比してアルコール分解酵素の活性が低い人の割合が多く、アルコールによる障害は
より大きいのです。ところが日本の社会ではお酒は特別扱いされ、酒類の広告にも外国ほど規制は
ありません(北欧やフランスではお酒のCMは全面禁止)。逆に「酒は百薬の長」とか
「少量ならむしろ健康にいい」といいます。お酒の効用を示す報告にはトリックがあるとの指摘があります。
つまり分析の際に「お酒を全く飲まない人」には、お酒で病気になり「飲めなくなった人」を含んでいるため
「少し飲む人」よりも短命であるというもの。そもそも「酒は百薬の長」のあとには「されど万病の元」と続く
のですが、その部分は忘れられています。

 最近若い女性や未成年者の飲酒が増え、台所でお酒を飲む女性のキッチンドリンカーも増加しています。
中学生の半分近くが一度はお酒を飲んだことがあるという調査もあります。10代の飲酒が危険なのは、
@脳が萎縮して知能低下を起こす、A性機能に影響が出る、B急性アルコール中毒をおこしやすい、
C短期間でアルコール依存になりやすい、などの可能性が高いからです。
女性もアルコールの害を受けやすく、男性のおよそ半分の期間と量でアルコール依存症になってしまいます。

 男性の大人なら大丈夫なわけではありません。アルコールと肥満、ガン、高血圧、心筋梗塞、肝硬変、
痴呆、脳卒中、うつ病、自殺との因果関係を示すデータは数多くあります。
それは必ずしも大量に飲んだ場合だけでなく、毎日少量の飲酒から危険は増しているという警告も
なされました。当院でも降圧薬を3剤のんでも血圧が下がらなかったのに、下血を機に禁酒したら
血圧が下がって薬を全く必要としなくなった方がいます。
これを裏付けるように、酒類を全く飲まないある宗派では、循環器疾患による死亡率は他のアメリカ人や
カナダ人の半分以下で、ガンによる死亡率も約半分なのです。アルコールは老化・発ガンの一因として
注目されている活性酸素などを発生させ、直接DNAを傷害するほか、肝臓の解毒作用を阻害し、
免疫系の防御機能も侵害します。これらが各種のガンの発生を助長していると考えられます
(タバコと組み合わさると、この発ガン性はまさに倍増します)。

 憂さ晴らしでお酒を飲むという人もいるでしょうが、過量の飲酒はかえってうつ病の危険性を高めます。
自分は晩酌程度と思っていても、後ろめたさや減酒の必要を感じている人の多くはすでに依存があるとも
言われます。アルコール依存症は自然治癒することはまずなく、治療しなければ平均寿命は52〜53歳
程度といわれる怖い病気です。うつ病になる率が4倍くらい高くなり、自殺の危険性も3〜8倍にもなります。
交通事故や家庭内暴力にも関連しています。アルコール依存症の死亡率が高いのは、アルコールによる
臓器障害に加え、事故や自殺などで亡くなる例が少なくないためです。

 飲酒人口やアルコールに関わる産業が多いこともあり、このような情報はあまり重視されてきませんでした。
タブー視されてきたこの「お酒」が、じつは秋田(日本)が抱える多くの問題を解く一つの鍵かもしれません。
まずは開いた心で吟味して頂きたいと思います。
(平成18年11北鹿新聞「お茶の間クリニック」)




トップへ



前へ

次へ