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 メタボ健診にもの申す

特定健診、いわゆるメタボ健診が施行され一年となった。私がこの健診に疑問を抱き、参加を中止した
理由を挙げてみたい(肥満やシンドローム自体ではなく、これをいじって国をあげて個人の体型や健康に
いたずらに介入し病人を作り出している事態を問題視したい)。

腹囲の基準で男<女なのは世界で日本だけで、測定する位置も世界と異なる。そのため
国際糖尿病連合から日本の腹囲は奇妙なので使用しないように、との宣言文まで出た。
そもそも腹囲の根拠となる論文自体に歪曲やミスが指摘されている。昨年8月には国や機関によって
まちまちな診断基準を国際統一する動きがあり、なんとそこでは腹囲は基準から外される方針が
決まったのである!

メタボリックシンドローム自体、いまだ各国で議論されており、心血管疾患とは無関係だったという英国の
報告もあり基盤が揺らいでいる。日本の基準は厚労省発表の1年前に日本内科学会誌で発表され、
その「診断基準検討委員会」は8学会から選出となっているが実際は肥満学会と動脈硬化学会が
過半数を占め、議論を重ねて学会の総意で決定されたと思われがちだが実態がない。
まず健診ありきでそれにあわせて基準をまとめた、といわれても仕方がない。

その基準もいじられ保健指導の判定基準が必要以上に厳しくなっていることもそうだが(これにより
多くの'患者'が発生する)、下限値が設定されていないことも問題である。久山町の疫学調査によれば
男性はBMIが23−26,女性は23−25の人が最も死亡率が低い(自殺やガンなども含めた総死亡)。
生命保険会社が調査すると男女とも平均体重よりちょっと太めの人が最も長生きする。総死亡では
BMIが19未満のやせすぎの人が最も危険であり、総コレステロールもあまり低すぎると(<160)
ガン他の死亡が増えるのだが、健診では問題とされない。

コレステロールや肥満の影響は心筋梗塞など特定の疾患に関してのみデータを呈示されるので
誤解しやすい。日本では心筋梗塞は同年齢の比較ではむしろ減少しており(高齢者の増加により
総数が増える)、死因のトップはガンである。なのに特定健診の負担のためにガン検診や人間ドックへの
補助を縮小する自治体すら出ている。欧米に比して肥満が少なく(米国ではBMIが30以上は
31%もいるが日本では該当するのは3%)、虚血性心疾患が少ない日本が、肥満のみ
(それも必要以上に厳しく)問題視し、やせすぎやガンを野放しにする愚。

この健診で生活習慣病を減らして2兆円の医療費が削減できると厚労省はソロバンをはじくが、
実際は健診で引っかかり受診→処方が増え一時的にしろ医療費は増加する可能性がある。
厳しい診断基準同様、製薬会社の利益擁護と言われてもおかしくない(ここに天下りがあるのは周知の事実)。
この法案自体も、悪名高い「後期高齢者医療制度」とともに強行採決されたもの。
わずか3年でメディア(健康産業)を巻き込んだキャンペーンを張ってブームを作り、健診まで立ち上げた目的
は何か。そのかいあって今や新聞、TV、健康?食品、サプリ、ダイエット、どれも「メタボ」のオンパレード。

ジョークにして笑い飛ばしているうちはまだよい。底意を感じ危惧するのは、健康管理が保険者と個人の
自己責任とされ、受診率など目標値を達成しない場合は保険料負担を上乗せするなどのペナルティすら
検討していることだ。健康管理しない個人、会社には罰としてお金を負担させるというのだ。
脂肪税がジョークでなくなった。「すべての国民の健康で文化的な最低限の生活の権利、
すべての生活部門での社会福祉・社会保障および公衆衛生の向上および増進に努める国の義務」
を定めた憲法25条に抵触する内容である。成果・能率主義、競争原理は格差を生み、
いまや反省の時期であるのに、社会保障が逆行してどうするのか。「健康増進」という一見「善・是」を
掲げて紛らわしいが、経済・効率しか目に入らない極めて非情、近視眼的な政策なのである。

丸投げされた自治体の現場では、ボイコットする動きもある。見直しは早いほうがよい。
しかし後期高齢者医療制度と違い、メタボ健診の罠は一般市民にはわかりづらい。
医療・医学のプロ集団として、学会や医師会がこのメタボ健診にどう対応していくのか。
もちろん健診に携わっている自治体・事業団や個人医院はむしろ被害者であり非難できないが、
この違和感は増大するばかりである。お上からの悪政にNo!を示す絶好の機会と思うが如何?




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