院長のエッセイ

ベジタリアンという生き方 |
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小太りだったはずの友人が久しぶりにあったら急にスマートになって元気そうだったので、その理由を尋ねたところ
「食生活を変えたのさ、簡単に言えば、ベジタリアンになったというところかな」との返事。
日頃外来で肥満の問題に頭を悩ませているのは無論ですが、昨今のBSE(狂牛病)、鳥インフルエンザ、
鯉ヘルペスなど、食肉に関する不安が増大していることも相まって、興味を引かれ、いろいろと話を聞いてみた。
ある本がきっかけで、彼は肉の摂取を減らすようになり、午前中は果物と野菜で作ったジュースをたっぷり、
昼と夜は肉も少しはとるが、野菜を中心にしたメニューにしたところ、非常に便通がよくなり、半年で無理なく
5〜6kg減量したと。「腹一杯食べてもいいから全然ひもじくないし、かえって体調が非常にいいんだ。
それまでの食事がいかに多すぎたか、よくわかったよ」。
確かに「糖尿病・高血圧・高脂血症・痛風などの生活習慣病の大半は、食べ過ぎが原因である」
と言い切る人もいる。「腹八分に病なし」とはよく言ったもの。肥満は高血圧や糖尿病などと結びつき、
やがては脳血管障害や心筋梗塞などを引き起こす。ベジタリアンはこれらを起こしにくいのはもちろんのこと、
ある種の癌の発症率も低いというデータもあった。
果物や生野菜は約70%が水分で、人間の体に近い。さらに各種ビタミンやファイトケミカルなどの
有効物質が多く含まれている。焼いた肉などは水分がほとんどなく消化・吸収に非常なエネルギーを要する。
これらをたくさん取り込むことで、食後からだが重くなったりする。「肉の100カロリーとリンゴの100カロリーは、
全く別物なのさ」
とりすぎたカロリーは脂肪などの形で蓄積されてしまう。もともと人間は飢餓にさらされていた期間が長いため、
余分なエネルギーをため込むしくみにある。その意味ではみな「太りやすい体質」といえる。
そもそもベジタリアンとはイコール「菜食主義者」ではなく「健全な・活発な」という意味の言葉に由来する。
なかにも厳格なものから野菜以外に乳製品や卵、シーフードに限ってとる人まで幅広いグループがある。
「家畜を飼育するのには大量の牧草などを必要とするし、他に燃料もかかる。その意味で菜食は
地球に優しい生き方でもある」 そういえば、トルストイ、宮沢賢治、ガンジーやジョン・レノンなど
有名なベジタリアンの思想家も多い。欧米ではベジタリアンが増えつつあり、レストランのメニューも豊富だ。
単に殺生に反対して野菜しか食べないという古いイメージではなく、自分の他に環境まで考えた
ひとつの人生観なのだと言うことを、彼は教えてくれた。
以来、自分でも実践してみた。肉を食べないというと貧素なようだが、これが意外とほとんどの(昔ながらの)
日本料理は食べられる。素のままの野菜や果物のうまさも思い知らされた。ただ、外食すると
選べるメニューはまだ少ない。
「でも、こんなこと宣伝しちゃ、あちこちから文句言われるね。まさか君、これ新聞に載せないだろうね」
「大丈夫、読んでも実際にやる人は少ないからね(笑)」
(平成16年1月 秋田魁新報「聴診器」一部改変) |
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