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院長のエッセイ


 風邪の効用

 風邪やインフルエンザがはやる季節になりました。みなさまはいかがお過ごしでしょうか?
さて、外来で風邪といって受診する人を見ていて気になることがあります。

西洋医学の特徴として、咳が出れば咳止め、鼻が出れば鼻水止め、熱が上がれば解熱剤と、処方する
(あるいは本人がほしがる)ことになります。これらはあくまで対症療法といわれるもので、
根治療法ではありません。熱が下がっても風邪が治ったわけではなく、下げただけ。ここを勘違いすると、
「注射一本お願いします」。「座薬で熱は下げていましたが、切れたのでください」ということになります。
では、風邪に根治療法はあるのか?

 「風邪の効用」という古い本があります(野口晴哉著、1962年ちくま文庫)。
風邪は自然の健康法である。風邪は治すべきものではない、経過するものであると主張する著者は、
自然な経過を乱しさえしなければ、風邪を引いた後は、あたかも蛇が脱皮するように新鮮な体になると
説いています。「闘病」という言葉に象徴される現代の病気に対する考えを一変させる本です。

 「風邪は万病の元という言葉に脅かされて自然に経過することを忘れ、治さねば治らぬもののように思いこんで、
風邪を引くような体の偏りをただすのだということを無視してしまうことは良くない。体を正し、生活を改め、
経過を待つべきである。このようにすれば、風邪が体の掃除になり、安全弁としての働きを持っていることが
わかるだろう」とのべています。

 「病気=悪」というきめつけ。これ以外にも、我々は多くの既成概念に縛られ、
疑うことさえないものが多くないでしょうか?どうしてこう思うようになったのか、本当にそうだろうか?
視点を変えれば、病気ですら体のためと捉えることができるのです。

 「失われた10年」という言葉があります。バブルに踊らされた10年、日本人は何をしていたのか?
取り返しのつかないものを失った、という言い方です。わたしもこれまでは、なんとなく同意していましたが、
はたしてそうだろうか?この10年を経たおかげで、物質的なもの偏重で突き進んできた経済のあり方から、
多くの人が目覚めたのではないでしょうか?スローフードという言葉に見られるように、
自然でスピリチュアルなものの大切さに気づく人が増えたのも確かなことです。

 むろん、なにもせず放置していいといってるわけではありませんので誤解のないように。
前向きにとらえることで、より自然で有効な対処の仕方ができるのでは?ということです。
「不景気」「高齢化」「少子化」等々。並べられることが多いのですが、今一度
真っ白な心でとらえなおしたら新鮮で興味深いかもしれません。

こんなことを言っているうちの診療所が将来何を始めるか、われながら楽しみです。



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