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院長のエッセイ


 深呼吸の必要

ちまたでは女性の間でヨガが人気です。
ダイエット効果も期待されているようですが、もちろん減量が目的ではなく、もともとストレッチと瞑想で
心身の安定を得るものです。ヨガの特徴の一つにゆっくりとした意識的な呼吸のコントロールがあります。

私たちは普段無意識に呼吸していますが、呼吸には大きく分けて胸式呼吸と腹式呼吸があります。
胸式呼吸は胸を前後して肩を上げ下げする呼吸。腹式では横隔膜と腹筋を使って肺を伸縮させるもので、
横隔膜を下げることで空気が沢山取り込まれます。

腹式呼吸では換気量が増え、体内に取り込む酸素の量も多いので、脂肪の燃焼が促進され、
基礎代謝も増えることが期待されます。内臓が大きく移動するために各臓器の働きも活発になり
便通にも良いでしょう。一日何回呼吸しているかを考えたら、呼吸法の変化がもたらす違いは
非常に大きいことがわかります。

少し歩くと息が切れるという人がいます。肺や心臓に問題があることもありますが、姿勢に原因がある場合も
あります。背中を丸めて下を向いて身体が縮こまっている方が多いようです。背筋を伸ばして
ゆっくり大きく呼吸してみたらとお話ししたら、すぐに息切れが良くなった方もいました。

深呼吸すると末梢血管が拡張して血行が良くなり、冷え性にも効果があります。
これは深呼吸により肺表面がふくらみ、プロスタグランジンI2(アイツー)という末梢の血管拡張作用がある
生理活性物質が分泌されるためです。血圧が高いときに2〜3回深呼吸しただけで
ずいぶん血圧が下がることに気づいたひとも多いのではないでしょうか。
「高い、大変だ」と心配してあせるほど、血圧は上がりがち。自覚症状がなければあわてずに、
まずゆっくりと深呼吸を繰り返しましょう。水でも飲めばなおさら良いでしょう。

肺活量の違いはもちろんですが、深呼吸にはそれ以上の効果があります。呼吸を意識的に変えることで、
自律神経のうちの副交感神経を活発にすることができるのです。これにより身体がリラックスし、
イライラや不安が落ち着きます。ひとは緊張している状態では知らず知らずに呼吸が浅く速くなっています。
呼吸法を変えることでこの緊張から抜けられるかもしれません。寝る前に行えば、ぐっすり眠れるという効果も
期待できます。

普段意識していないこの呼吸は、なんと不思議な素晴らしい仕組みでしょう。食べ物だけではなく、
空気は確実にからだにエネルギーと活力を供給してくれます、そしてそれは今目の前にふんだんにあるのです。
森林や河原の清涼で新鮮な空気であればなおさらです。
こんなことに気づくだけで、ちょっと得した気持ちになったのではありませんか?

「深呼吸の必要」というのは長田弘さんの詩集ですが、その中の一節
「この世でいちばん難しいのは、いちばん簡単なこと。」
これを読み終えたらさっそく大きく深呼吸をしてみて下さいね!
(平成19年10月 北鹿新聞お茶の間クリニック掲載)



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