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 いつまでハンドル握りますか?

 高齢ドライバーによる交通事故が世間を騒がせています。

高速道路の逆走や急速で人混みに突っ込むなど、大事故につながったケースも

多く報じられました。これを受けて2017年3月には改正道路交通法が施行され、

75歳以上のドライバーは、高齢者講習に加え認知機能検査などが強化されました。

運転免許証の自主返納の働きかけも広がり、悲惨な事故のあとは返納する方が

増加しました。

 2015年までの20年間で65歳以上の高齢者人口は約2倍に増加し、

高齢ドライバー数は480万人から1710万人と4倍近く増えています。

マイカーブームの時代に郊外型のライフスタイルが広まった世代が高齢者になり、

車社会の日本で特に代替移動手段に乏しい地域では、生活が不便になってしまう

ため運転をやめたくてもやめられない事情があります。自転車や徒歩での移動は

困難となり、バスや電車は利用しにくく、移動手段としての車の魅力は高まります。

高齢者世帯では一人暮らしや夫婦のみの世帯が半数を超え、自ら運転しないと

助けてくれる家族がいない場合も多いのです。

 高齢者に限らず、車の運転は移動手段の他に、楽しみとか自尊心の満足という

意味も持ちます。仕事をやめても車はまだ現役だという自負が、運転が生きがいだと

いう理由の一つかもしれません。運動機能低下を、経験と知恵で補いながら運転を

続けている方もいるはずで、認知機能の低下が即危険運転としていいのか難しい。

 マスコミは「高齢ドライバーは危険」というメッセージを伝え、マイナスイメージに

偏った報道は、偏見を助長する危険もあります。「危険にならないうちに運転を

やめさせよう」と考えるか「安全なうちはなるべく運転を支援しよう」と考えるかで

対策の方向は全く違ってきます。

 医学的には、年齢とともに視力低下・視野狭窄や筋力の低下、反射神経の鈍化

など生理的変化が必ず起こります。病気にかかりやすく生活習慣病を有する

ということも事故に関係します。高齢者特有の疾患が増え老年症候群とも呼ばれ、

転倒、尿失禁、認知症、睡眠障害、意識の混濁、慢性めまい症など多くの病気が

当てはまります。高齢者は身体が弱く同じ事故でも死亡事故が多くなりがちです。

 危険防止機能付きの自動車も多くなり、事故防止に一定の効果を果たしています。

また自動運転技術も進められていますがまだ実験段階なのが実情です。

一方で高齢者にとって車の運転は、医療や介護の費用の節約になるというデータも

あります。運転が健康ひいては介護予防に寄与する可能性があるというのです。

 様々な切り口があり、簡単に結論は出せません。社会としては免許制度(限定免許)、

更新時のテスト(運転技能の評価)、返納後の移動手段の確保など。

個人では自分の運転技術の自覚、訓練、返納のタイミング・説得、家族の支援等々。

高齢ドライバーも、正確な情報を得て、交通事故の特性を知り、自身の運転と

問題を知れば事故を起こさずに済むことは可能と思います。

 自分や身近な人がいつ加害者や被害者になるかわかりません。他人事と考えず

に、安全安心な社会に向けて皆さんで取り組んでいきましょう。







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