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院長のエッセイ


 日本医療の不思議

新型コロナとの取り組みを通じ、日本の医療体制の構造的課題があぶり出された。
連日の報道で、医療従事者・医師会は持ち上げられたりこき下ろされたり、メディアや
国民との間に溝も感じるがうまく説明できないジレンマを感じる。

多くの著作が世に出たが「日本の医療の不都合な真実〜コロナ禍で見えた『世界最
高レベルの医療』の裏側〜」というその名もズバリなものがある。著者の森田洋之氏
は夕張市立診療所の勤務経験もある医師で、コロナを契機に吹き出した疑問点を整
理し、データと夕張の経験をもとに、医師すら気づかぬ陥穽を指摘している。センセー
ショナルなタイトルだが、中身は地味な労作。

冒頭7つの質問を投げかける、すなわち

@病床が多いと平均寿命が伸びる?

A全国どこでも同じような医療が受けられる?

B医師が忙しすぎるのは医師不足だから?

C医療も市場原理に任せるほうがうまくいく?

D地域の病院は減らしてはいけない?

E公立病院の赤字は税金の無駄遣い?

F病院がなければ高齢者は幸せに生きられない?

答えはすべてNOで、YESと考えられている事柄は全て誤解だと言い切る。まさに今当
地を騒がせている問題も、実は双方ともこれらに立脚していることに気づく。@DF
の立場から住民は安心安全な老後を確保するために病院・病床の存続を訴える。一
方でBCEを論拠に自治体は病院の統廃合もやむなしとする。

@世界では病床を減らしながら平均寿命を伸ばしており、増加しているのは日本や
中国、韓国など一部。県別のデータでも「病床数と平均寿命との関連性は低い」。

A高知県の入院医療費は静岡県の約2倍、病床でも神奈川県の約3倍だが、これが
寿命に影響していないのは明らかで、長寿の長野県は病床数は少ない部類。空床
は本来喜ぶべきことだが、病床使用率が低いことに罪悪感を感じさせる医療制度の
仕組みがある。

B病床数1位、外来受診数2位、CT・MRI数1位の日本だが、患者数が諸外国の数
倍いるわけもなく、結果医療費・診療報酬抑制策に対し薄利多売モデルに舵を切ら
ざるをえない。

C健康保険によりコスト意識ほぼ無しで消費でき、その価値がわかりにくく医療は適
正量以上に消費される(コロナによる受診者激減が証明)、報酬が確保される医療側
も応じて提供するため、病院・医療が過剰でも淘汰される仕組みが働かない。

E医療界の原資はほとんどが保険料や税金などの公的資金であり、公立病院への
繰入金が減少し黒字経営になっても、健康保険からの収入が増加するだけ、名前が
違うが中身はほぼ同じ。国民の命と安全を守る意味で医療は警察や消防と同じであ
り、消防が赤字だからもっと稼げという理屈と同じ。英国・フランス・ドイツでは医療は
公的存在である。

DF財政破綻した夕張市では唯一の総合病院171床が19床の有床診療所と老健に
縮小したが予想に反し死亡率は上がらず、満床にもならず逆に心疾患や肺炎の死亡
率が減少、増加したのは「老衰」による死亡だった!

在宅・終末期医療・プライマリケア・市民の意識改革の言葉が挙がるが、著者の持論
なので割愛。「人は必ず死ぬ、の原点に立ち戻り、ひとりひとりの人生に寄り添い少
ない医療で支えたい」と結ぶ。

さても少子高齢化の最前線たる当地で独自モデルを構築できると思うが如何?






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