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院長のエッセイ


 ファクターX

 新型コロナ対策は、日本は他国と比べると比較的穏やかでしたが、感染者や死亡者数は、
欧米より少なく済んでいます(現時点まで)。不明なまま山中伸弥教授はその理由をファクターXと呼び、
この傾向はアジアやオセアニアにも指摘されています。

 その候補として*クラスター対策班や保健所職員などによる献身的な対策*大規模イベント休止、
休校要請により国民が早期から危機感を共有(有名人も亡くなり)*マスク着用や毎日の入浴などの
高い衛生意識*ハグや握手、大声での会話が少ない生活文化*遺伝的要因*BCG接種など
公衆衛生政策*ウイルス感染の既往*ウイルスの遺伝子変異の影響、などを挙げています。

 日本の初期対策は、豪華客船への対応から、一時は外国もメディアでも酷評されました。
一方で米国のCDCが憧憬を持って賛美されたことは記憶に新しい。しかし、今では米国は世界一の
患者と死者を数えています。日本がなにか特殊な事情で「守られている」というのは、ある意味
選民意識をくすぐるのか?

 一方で「ファクターXなど存在しない」とする岩田健太郎教授のような方もおられます。
第二波を迎えている現在、高齢者の死亡率は諸外国と変わらず、検査件数が増えれば
いずれ感染状況として同じだったことが判明するだろうと。

 個人的にはファクターXは有ると感じます。人種・遺伝的なもの、これはにわかには解析困難です。
人種による死者数の割合を全米とカリフォルニア州で比べると、アジア系住民の人口あたりの死者数は
白人と比べて低くなく、一概に人種では決められないというデータもあります。
BCG接種、これは否定する論文も出ましたが、接種率だけでなく株の違いではと(日本はTokyo株)、
抗体産生ではなく免疫脳活性化の効果が指摘されています。

 生活様式では、マスク(WHOは当初否定しながらその後推奨に転じた)、土足なし、入浴習慣
(諸外国では週に何度かシャワーで済ませる)、水洗便所にウォシュレット。客船の後日調査では
ウイルスはトイレ床面で最も多く検出され、便への排出とそこからの接触感染も否定できません。
 北里研修所では抗寄生虫薬イベルメクチン(ノーベル賞の大村智教授の発見薬品)の治験を開始
しました、なぜ駆虫薬がウイルスに効く可能性があるのか?これも興味のあるところです。

 高血圧や腎不全絡みで、医局時代からACE受容体には関心を持っています。日本やアジア人は
ACE2受容体(これを介しコロナウイルスが細胞に入り込む)の発現が多く、欧州人は少ないので当初は
日本は感染高リスクとの予測もあったのです。古来海藻類を食してきたためACE2受容体が増加したので、
逆に受容体が塞がれているのだという反論がなされています。(生の海藻類を消化吸収できるのは
日本人だけ?!)

 ワクチン開発を期待する向きもありますが、食生活の気づきが重症化予防に関与するとしたら、
安価で広大な効果が期待できると思うのは田舎医者の妄想でしょうか。
神風を吹かすつもりはありませんが、今晩のひと風呂浴びて昆布の味噌汁を召し上がれ。
(大北医報2020.10掲載)



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